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2006年2月16日 (木)

私の好きな悪女「世にも不幸なおとぎ話(ステラ・ダフィ著)」

404897323109_ou09_pe0_scmzzzzzzz_1 ファンタジーで思い出したのでもう一冊、こちらは立派な魔性の女(小宮が認定。)

 魅力的な悪役を創造するためには、その性格だけでなく、出身地から生い立ちからそれまでの生活ぶり、すべてを考え出すくらいでなければダメだ、と思っていた。

 悪者を「あっち側の人間」と思ってしまったらもうダメなのだ。そういう幼稚な精神で書かれた物語はすぐにわかる。

ただ、作家の性質によって、呼吸するようにすんなりと邪悪を滲ませる人もいれば、悪いヤツやイカれたヤツの内面に切り込んでいくのがどうしても不得意らしい人がある。後者の場合、嫌な印象はないが、「がんばってるんだけど、ダメだな……」という感じが残る。

このステラ・ダフィという作家は前者に違いない。クシュラ王女は魔法王国の住人だが、人間界にやって来て波乱を巻き起こし、他人の不幸を喜んで「気分爽快だ」などと言う。彼女が意地悪になってしまった理由というのが「生まれたとき、ハートの妖精が地下鉄のトラブルで遅刻し、<心>をプレゼントできなかったから」という。特殊な生い立ちでも過酷な環境でもなく「妖精が来なかった」。つまり100%天然、ナチュラルボーン悪女である。

こういう「生まれつき悪いヤツだった」という設定は、いわゆる影のあるタイプと違って、へたをすると薄っぺらな悪役になってしまう。だがこの本に限っては心配ない。クシュラ王女の天然悪人としての思考回路は、きっちり内側から描き出されて、独特の存在感をもつ。

このクシュラ王女、人間と関わるうちに、なかったはずの<心>が生えてきてしまう。すると、自らの胸を刃物で切り開き、生まれたてのハートを、荒っぽい外科手術のような要領で切除する(さらに、その肉片を隣の犬に投げ与えたりする)。

美しくもスプラッタな描写もさることながら、彼女のこういう潔さは、もう涙がでるほど魅力的だ。人並み以上の知能を持つ彼女は、自分が何を捨ててしまったかちゃんとわかっているはずなのだ。その行動は「人間は心だ」「愛が一番」などと一面的で平坦な価値観を押し付ける人間界への、究極の疑問符であり、レジスタンスのように思える。そう、魅力的な悪役とは、魅力的なアナキストでもあるのだ。

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