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2007年7月16日 (月)

「99粒のなみだ」というのを発見!

Imgp1802  詩集「99粒のなみだ」寺山修司編、新書館。1969年初版発行で、これは73年の再版(それでもかなり古びている)。

不思議で、個性的で、愛らしさと冷淡さの同居したようなイラストに惹きつけられる。このイラストは「宇野亜喜良」という人が描いたことになっているが、あるページの少女の絵を見ていてハッとした。私が子供の頃から持っている、家宝のオルゴールのイラストに似た雰囲気があるのだ。

Imgp1806 Imgp1801

←これがMYオルゴール。べつに高価なものではないんだろうけど、深緑に塗られた木の箱、ふちどりのカット、フタの金の模様などが、最近のおもちゃにはありえないほど凝っているので、手放せずにいる。イラストは一枚のタイルに書かれていて、下の方にサインのようなものがあるが、判読不能。洋風の背景と直毛・黒髪の少女という和洋折衷の組み合わせが本の一連のイラストと通じるものを感じさせる。このイラストレーターが、私がオルゴールをもらった当時にまだ生きて絵を描いていたことは充分ありうる。それとも、ただ単にぶ厚い前髪が流行っていたのだろうか?

全体の題名でもある「99粒の涙」は、本の中ほどに収録されている雑文集のようなものだが、これにはいろんな意味で驚いた。今の時代にこの手の、耽美で少女趣味的な雑文を書いても男はバカにしてとりあわないだろうし、ましてやまともに出版はありえない。どうして寺山修司がこれを収録したのだろう。当時としては先駆的だったからなのか、それとも女性にはウケると見抜いたからなのだろうか? それとも昔は少女の世界が一つの文化としてそれなりに評価されていたのに、最近地位が落ちてきたのだろうか?

この雑文集の内容は、あんりとぱうろという二人の若者(著者)が「地獄の天使」という名の喫茶店を経営している。(寺山修司の序文では彼らを「二人の少女」と呼んでいるが、文中に「おかまのふりをする」というくだりがある。おかまのふりをするからには男ではないのか? ともかく性別はぼかされて定かではない。)彼らの趣味や生活ぶりがお洒落に、またひょうきんに綴られ、それを通して一つの文化が浮かび上がる。彼らの蔵書に、サロメ、美神の館、殺しの美学、毒殺の手帖、性的倒錯、拷問の歴史、火星年代記(バローズのSF小説??)、世界怪奇小説傑作選、等々の題名が並んでいる、というくだりがあって、「これあたしの部屋?」と思うほど親近感を感じてしまう。当時すでにゴシック趣味や耽美主義が広まりつつあったということだろうか。

ただ、近頃のもの書きの若者では及びもつかないというか、想像を絶する部分もある。たとえばこのあんりとぱうろの時間感覚や、優雅きわまりない怠惰ぶりは、現代人にはとても真似できない感じがする。彼らが人間であることにものすごい新鮮さを感じてしまった。

というのは、忙しい世の中でみなさんお疲れなので「ゆっくりやろう」「のんびりしましょう」という大人向けの癒し系絵本みたいなものがたくさん出ている。しかしその主人公たちの多くは人間ではない。クマだとかウサギだとか、はてはパンや豆腐である。人間がのんびりしていたら、とてもじゃないがシャレにならないからなのか? 昔は、書き手が男で、フワフワとしたつかみどころのない女主人公に自分の願望を転化した小説が多かった。自由で、いっさいの責任や義務を持たないまま生きることを許され、どこか現実から遊離したような人間を書きたいとき、男ではありえないというわけで、主人公を女にするのだ。

しかし今は女でも少女でも少年でも何かと忙しい。だから「あわただしい女の生活」から一時逃避したい。でものんびりしている人間なんかはしょせんありえない、存在したとしてもそれを見るのは癪に障る。そんなわけで、動物や豆腐に夢を託すのだろうか?

豆腐に夢を託す。そう考えるとすごいものがある。

話がそれてしまった。とにかく寺山修司の最初と終わりの言葉がふるっていてリアルなので、大笑いしてしまった。

「どうか この詩をおいてけぼりにして さっさと人生をはじめてしまわず ときどきはふりかえってあげてください」

「詩人の多すぎる世の中は不幸ですが 詩人のいない世の中はもっと不幸なのです」

彼も「こんな本に何の意味がある」「こんな幻想に何の意味がある」という合理主義や利益追求や労働賛美と闘っていたのだろうか。

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