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2008年6月23日 (月)

「夜愁」を読んだ

Imgp5137  雨の日にロンドンの話を読む……ただしこれは爆弾の雨がふりそそぐ1940年代ロンドン。

大好きなサラ・ウォーターズの「夜愁」上・下 中村有希訳 創元推理文庫

 独断で順位をつけさせてもらうと、私はサラ・ウォーターズの小説は「茨の城」が一番好きで、2番目は「半身」、3番と4番はなくて、5番目にこの「夜愁」がくる。まず時代設定が近代過ぎていけない。私はヴィクトリア朝を舞台にしたのが好きだったのに。ひとつ考えたのは、「作者がウォーターズだということをいったん頭から消し去ってから読めばよかった」ということだ。

 しかし女と女のロマンスはやっぱり健在だった。金髪がお好きな紳士ケイ、美人の推理小説家ジュリア、その2人に翻弄される、一見キュートだが激情家のヘレン……という三角関係はスリリングでおもしろい。

 今回は、登場人物が全員変態、といっても過言ではない。そして前作にもまして同性愛者たちがリアル、というか写実的(ミッキーみたいな女、日本にもいる。というか見たことある。ジュリアみたいなのも絶対いる。ヘレンは、そこらにいても見過ごしてしまう)。

 唯一ストレートの女ヴィヴ。その彼氏がものすごーく軽薄に、薄汚く描かれている。ただしこれもゴシック調の悪党ではなく、「うわっ、こういう男いるよな」というリアルな下郎だ。それにくらべると他の変態たちがなんとけなげで純真に見えることか。この男に比べたら、プライドの高い身勝手なジュリアでさえも美しい。ヴィヴの章は、不倫、嘘、中絶……と異性愛の暗黒面を結集したような物語に仕上がっており、少なくとも私は彼氏のセリフを読むたび、あまりの不快感にぞわぞわと鳥肌が立った。

 第二次世界大戦のロンドンが舞台なのだが、戦争の悲劇をストレートに説教臭く書かないところが好きだ。爆撃の中で恋が生まれ、不確かな状況のためによりいっそう情熱的に人との繋がりを求める人々。ときには、危険や混乱をまるで恋のスパイスとして利用しているかのようなしたたかさすら感じさせる。

 なかでもケイは救急隊員として「ヒーロー」と称されるほど大活躍し、壊れた家屋から救出した好みの女の子と暮らす。しかし戦後の平和の中では生きがいもなく、トラウマに苦しみ、女にもすてられ(パニックから生まれた恋だからはかない)、抜け殻のようになっている。ある意味「ランボー」パート1のような悲しさだ。

 最近、日本の不遇な若者の一部に「いっそ戦争でもあればいい」という考えがあるらしい。男の消えた町を華麗に駆け回っていたらしいケイを想うと、私も「宇宙人でも攻めてこないかな」と思う。しかし一時的に大活躍したとしても、しょせん刹那的なものなのだ。またすぐに時代が変わって、用済みの廃人と化し、そうなっても誰も面倒みてくれない――そんなこわさがある。

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