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2008年8月11日 (月)

「ずっとお城で暮らしてる」

515jb7dfdgl_sl500_aa240_1  シャーリイ・ジャクスンの本は「たたり」があまりおもしろくなかったので敬遠していたが、これは気に入った。人によっては「不気味」「不快」などの感想もあるようだが、私はたいへん楽しく愉快な、素敵なお話だと思う。だって、ここまで我を張って、協調性のカケラもなくて、それでも生存が可能なら、それはもう本人の言葉通り「幸せ」としか言いようがないではないですか。

「ずっとお城で暮らしてる」シャーリイ・ジャクスン著 市田泉訳 創元推理文庫

 6年前、何者かが夕食に砒素をもり、姉妹と伯父をのぞく一家全員が惨殺されたブラックウッド家。その屋敷で今もなお引きこもり生活を送る姉コンスタンス、妹メリキャット、ジュリアンおじさん。

 そうなると砒素をもった犯人はこの生き残った3人のうち誰かということになるのだが、例によって全員あやしい。ジュリアンおじさんは自分を「今世紀最大の毒殺事件に立ち会った幸せ者」と豪語し、事件のドキュメンタリー本を書いて歴史に足跡を残そうという野望を抱いている(ただし自分も同じものを食べてあやうく死にかけた)。メリキャットは発作的に物を破壊する奇癖がある。コンスタンスは夕食を作った張本人で、容疑者として裁判にかけられたが釈放された。

 メリキャットの独白の形で話は進み、彼女の呪術的世界観がガンガン展開される。子供の精神のまま18歳まで育ってしまったような少女なのだが、私は彼女のことはそれほど不可解とは思えない。はっきり言って私も彼女と似たところのあるガキで、独自に編み出した黒魔術やまじないの儀式を実践していた。

 訳者は解説の中で彼女のことを、「弱者のおそろしさを体現したキャラクター」と評している。でも私の解釈は違う。彼女たち姉妹は弱者ではない。明らかに貴族(少なくともその末裔)だ。そもそもこの家では大人三人が働かずに食っている。メリキャットは美しい屋敷と広大な領地を所有していることを自我とプライドのよりどころとしている(その証拠に、ことあるごとに「ブラックウッド家の土地は」とか「わがブラックウッド家の女たちは、代々……」と口にする)。コンスタンスはどう思っているかわからないが、やはり屋敷を最後の砦と見なしているのは間違いない。

メリキャットが村人に敵意を向けるのは、弱者だからというより、むしろ特権意識が歪んだ形であらわれた状態ではないのだろうか。ただ、広大な土地など所有したことのない多くの日本人には、こういう領主心理の暗黒面みたいなものを理解できないのではなかろうかと思う。

そんなわけで私的には、一番不可解なキャラクターは姉のコンスタンスだ。もちろん最後の方で真犯人が明かされるのだが、もしも本当にコンスタンスが犯人ではないのなら、彼女の生き様はいったい何なのだろう?  私には10代の頃、どうしても表現したかったある人物像があって、コンスタンスはそれに似ている。ただ大先生の表現法を見ても、やっぱり私にとっては謎のままの、永遠のダークヴィーナスなのである。

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