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2008年10月20日 (月)

岸田秀を読んだ

Imgp5661  カバーの著者近影にはガッカリだ。昔の農家のオッサンのような、与作のような人物で、鼻を膨らませ、笑っているとも放心しているともつかない表情で口をだらしなく開いている。べつに文筆家が色男である必要はないのだが、せめてもう少し賢そうに写った写真はなかったのだろうか。しかし内容を読むとたいへん頭脳明晰で、人間の暗黒面を研究する素敵な心意気のある人のようだ。トボケた顔と知的な文章とのギャップがおもしろいので、この写真でよかったといえばよかったのかもしれない。

 三浦和義は最近も報道されたが(昔の映像は知らないが、どうやら私の好きなアニータや鈴香のような人だったらしい。鈴香は他のキラーママたちの地味っぷりに比べるとやはり逸材だった)、戸塚ヨットスクールなど全体的に話題が古く、初めて耳にする事件もある。ただそれでもなおかつ「へえー、なるほど」と思わせるすばらしい分析力だ。

 個人的におもしろかったのは「すべての物語は自己正当化の欲望から発する」というくだりだ。ただし彼の言う物語とは小説のことではなく、ノンフィクションも含めてすべてのジャンルを総括した、文章全般のことらしい。続けてこんなふうに書いてある、

 事実をありのまま書く、というのは嘘です。人間にはそんなことはできません。これから事実をありのまま書こうと思ったとき、すでにもう自己欺瞞に陥っています。

 私も常々「ぜひとも自分に都合のいい話を読んだり書いたりしたいものだ」と考えている。「自分」というと限定されすぎてしまうので、もっと広く「女に都合のいい話」としてもいい。だいたい女性が経営する映画会社だの、出版社だのができたのもごく最近のことだ。つまりこの世はもともと男に都合のいい話であふれかえっているのだから、女は女に都合のいい話を書いたらいいと思うのである。

 しかし、女に都合のいい話とはいったい何だろう。

a そのままストレートに「こんなことがあったらおもしろいな」と思わせる話(エンタテイメント、ボーイズラブ、ロマンス小説)

b 他人の(ただし架空の)災難を楽しむ「人の不幸は蜜の味」な話(ホラー、パニック、サスペンス)。ただこれは性差というより、社会的地位がよく関係する

c 反社会的・暴力的・背徳的等、一般常識や男の立場から見れば立派な悪女でありながら「ちょいとお待ち、あたしの方こそ被害者なんだよ」とでも言いたげな話(ありとあらゆるジャンル。純文学にもなりうる)

 そうはいっても「自分に都合のいい話ないかな」などと意識的に考えている時点でもうダメだ。最強のエンターテナーとはおそらく、ほとんど無意識のうちに自己正当化をやってのけ、しかもそこに高等で筋の通った理屈を考え出すことのできる人間である。

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