« 戦前生まれのゴシック作家…… | トップページ | サークル参加予定 »

2009年2月13日 (金)

ブラックジュース

51f5utilbwl_sl500_aa240_1  題名に「夜の」「闇の」もしくは日本語で「黒の」と入っているのはゴキゲンな楽しい本、しかしカタカナで「カラー」だの「ブラック」だのいう語が入っていると、人種問題を扱った本かと思って一瞬身構えてしまう(べつにフィクションで社会問題を扱ってもいいし、私はアリス・ウォーカーは好きで尊敬している。でも著者が作家として優れているからではなく活動家として立派だから出版されたような、ワリス・ディリーはつまらなかった)と思ったらこの本の場合はまったく関係なくて、オーストラリア人の書いた短編集だった。

世界幻想文学大賞の受賞作は、自分的にはたまに「なんじゃこりゃあ」というのもあるが、「沈んでいく姉さんを送る歌」は私もおもしろいと思った。どの話も架空の世界を舞台にしているようだ。でも登場人物たちは庶民的で、妙に生活感がある。ホラーではないが、死や葬儀を扱うのはお好きらしい。色気はない。

唯一「わが旦那様」に登場する若奥様がゴシックな美女だ。それでもなんとなく、ビルの狭間から出てきて朝帰りする迷える少女を思わせるような、乾いた現代っぽさが不思議である。どうしてこうなっちゃうんだろうか。たしかに完璧に昔の人の感性で書くことはできないし、書いたところで読み手が距離を感じてしまうから、これはこれでいいんだけれども(むしろこの著者の書く、老若問わずアウトロー的なさりげなくしたたかな女たちは素敵なんだけど)本物のヴィクトリア時代の作家の手にかかったらきっと旦那もろとも八つ裂きになってるんだろう、奥様。

「融通のきかない花嫁」は、個人的に興味深い話だった。この異世界では、結婚式が形骸化して女性だけの祭典のようになっている。女の子がいっせいに花嫁衣裳を着て教会へ行って、司教に祝福を受け、写真撮影して解散となる。それだけでも満足できてしまうという、ある意味女心の本質を突いている。主人公の母の言葉によると、この儀式は封建時代のなごりで、四度の革命をへて市民が自由を得た結果、花嫁崇拝のような、漠然とした概念だけが残ったという。新郎抜きで成立してしまうのも笑えるが、伝統の滑稽さや、それでもなんでもハクのつくことがしたいという人の心の脆さとでもいうのだろうか。私も、今ではない時代、ここではない場所の美に憧れるが、ドレスでもインテリアでも、クラシカルだとかエレガントとか、とにかく気品や豪華さなぞというのは、古い時代のいいトコ取りに過ぎないのは知っている。だからこそ、どうせなら当時の悲惨も残酷さもひっくるめた魅力に酔っちゃうか、少なくとも都合よくキレーなとこだけ抽出した事実を承知して、あくまでも現代のアレンジとして楽しむか、だと思うのである。しかし

「なんといっても、そのお手本になった王様や女王様はとうの昔に死んでるいる。あの人たちはいまのわたしたちの暮らしにはほとんど関係ない。あの革命はいったい何のためのものだったのか?」

という主人公の母のセリフのようなことは、やはり自問せざるをえないところなのだが……(しかしそもそも、この物語の少女が職人の娘でありながら花嫁学校へ通ったりドレスを着たりしているのは、たぶん革命のおかげなんだろう)。ところで、ドレスをきれいに着る術として「毛穴を閉じて皮膚表面の温度を低く保ち、汗をかかないようにする法」というのがでてくるのだが、爬虫類じゃあるまいし、そんなことが可能なんだろうか。

にほんブログ村 本ブログへ

|

« 戦前生まれのゴシック作家…… | トップページ | サークル参加予定 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/28889/28033839

この記事へのトラックバック一覧です: ブラックジュース:

« 戦前生まれのゴシック作家…… | トップページ | サークル参加予定 »