« 「アンダーワールド ビギンズ」を観た | トップページ | ご案内 »

2009年4月13日 (月)

異次元の豚

 怪談で、猫の妖怪を扱った「猫モノ」というのはとても多く、「犬モノ」もわりとあって、ヨーロッパの怪談なら狼がやるような役割を、日本の昔話では犬がやる。ウサギの怪談は少なく、私は一つしか知らない(タニス・リーの「シリアムニス」。この雌ウサギの不気味な迫力は絶品)。霊馬モノはヨーロッパに多く、日本にはない。日本ではどちらかというと牛が魔力を持つ。

 最近、非常にレアな「豚モノ」を見つけてしまった。その名も「異次元の豚」(1947年発表。原題は「ザ・Hog」とそのまんま)。「幽霊狩人 カーナッキの事件簿(W・H・ホジスン 夏来健次訳 創元推理文庫)」収録

51vhjaxgzcl_sl500_aa240_1

 

 

 

この物語は、

 怪奇現象を調査しているカーナッキという人が、悪夢に悩んでいる男の相談を受ける。その男は眠ると異次元に入り込んでしまうという特異体質の持ち主で、その異次元の世界の中で、豚の妖怪に追いかけられる。どうにか逃げて目を覚ますが、いつか捕まってしまいそうで恐ろしい。かといって眠らないわけにもいかないので困っている。

 そこでカーナッキが男に自分の前で眠ってもらうと、この男を媒体にして異次元への通路が開き、そこから豚地獄が垣間見える。たくさんの豚の鳴き声がしたり、黒い霧の中から豚の鼻が突き出したりする。そしてとうとう、豚の大魔王があらわれてしまった……!

(こう書くとギャグのようだが、これが大まじめに恐怖体験として綴られていて、ちゃんとサマになっているからすごい。豚をこんなに怖く描いてある話は初めて見た。このホジスンという人、自分で書きながら笑ってしまわなかったのだろうか?)

 どうしてこの男が豚の魔物と敵対関係にあるのか、「実家が代々養豚業でして」とでも言うのかと思ったが、けっきょく物語中には何の説明もなかった。しかしとにかくこの異次元は、長年にわたって人間に家畜化され、屠殺され、食われ続けた豚たちの怨念がつくりだしたものだろうと思って読んだ。べつに特定の人間が悪いわけでもないので、この男が人類を代表して罪をかぶったのだろう。本来は人に食されるべき非力なはずの豚が、この異次元では最強の存在として支配権を握っていて、逆に人間の霊魂を食らうのである。西洋人は食肉の歴史が長いから、近代化される以前の、罪悪感のようなものがこの当時まだあったのだろうか。

いや、それともまったく逆に、「動物とは霊魂からしてこんなふうに邪悪で欲深いものなのだから、人間様が管理してやらないといけないんだよ」という考え方が秘められているのだろうか。昔の宗教にはこういう都合のいい理屈があって、「動物」の部分を「子供」とか「女」としてしまえば体罰も虐待も正当化される、ある意味万能の言い訳である。そう考えてしまうとちょっといやな話だ。しかし怪談とは本来、不可能なはずの復讐が果たされ、現世では太刀打ちできない不公平や理不尽があの世の力によって正される場なのだから、私としては前者だと思いたい。

またカーナッキもこの件に限っては自力で勝利したわけではなく、異次元パトカー?みたいな謎の光に助けてもらっている。最後は神頼みで恩情をかけてもらった感じである。自分のためではなく、依頼人のためを思う心がけが認められたということなのだろうか。もしも自分が人類代表として豚地獄に落ちたら、せめて大魔王を見てからザコ豚に襲われたい。

|

« 「アンダーワールド ビギンズ」を観た | トップページ | ご案内 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/28889/29094289

この記事へのトラックバック一覧です: 異次元の豚:

« 「アンダーワールド ビギンズ」を観た | トップページ | ご案内 »