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2009年8月

2009年8月10日 (月)

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:

002 羅の 雲を針もて 繕はむ

破れ目の蒼 冴えすぎるゆえ

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2009年8月 6日 (木)

ピンプおじさんの優雅な生活

41dvfzpr85l_sl500_aa240_1  サエない男が色男を気取って書いたものにつきまとう、どうしようもなく嘘臭い空疎な匂いは第六感ですぐわかる。でもコイツは生まれながらの素材の良さと経験と精神的強靭さを兼ね備えた本物のイイ男、ただし危険人物――。

マイブームのアイスバーグ・スリム著、「ピンプ」角川ブックプラス、浅尾敦則訳

原書が欲しくなるほどスラング満載。でも訳もうまい(たとえば、女の前では自分のことを「オレ」と言い、母の前では「オイラ」と言う。娼婦たちの「あたい節」もよかった)。同じ著者の「トリックベイビー」も読んだのだが、訳者も違うし、個人的にはやはりピンプが傑作。

ピンプってなんだろうと思ってちょっと読むと「あ、ヒモのことね」と思う。ちなみに私が読んだ中では、ナンシー・A・コリンズの「ミッドナイトブルー」でもこの手の男が「ヒモ」と訳されていた気がする。しかし日本語でヒモといったら、堅気の女性にたかっている場合もヒモという。それに対して「ピンプ」は、あくまでも娼婦たちの元締めを務める男で、警察への贈賄やドラッグの売買などもやる、完全な極道である。スリムも自分自身を「ジゴロ」ではないとして、はっきり区別している。「ヒモ」という言葉はジゴロもヤクザもひっくるめたような曖昧なところがあるし、「女衒」も「ぽん引き」もちょっと違う。だからピンプはピンプとしか言いようがないのかもしれない。

口が達者で見た目もセクシー、身長188センチ、IQ175、若干18歳にして「おれが一流の女殺しになるのは間違いない」と確信したブラッドことアイスバーグ・スリム。1930年代のシカゴでスタートしたピンプ人生を綴る。訳者あとがきにも、ご隠居のホラあり武勇伝ありの昔話みたいな……と書いてあるとおり、ある時は恐ろしくも悲しく、ある時は「やだぁおじいちゃまったら」と笑わせてくれる。

登場する人々も妙に魅力的で、読み終わった後もなんとなく親しみが残る。不細工ながら抜群の悪知恵でピンプの帝王として君臨するスウィート・ジョーンズ。女のような美貌を誇る冷酷なグラス・トップ。スリムとの間で熾烈な主導権争いを繰り広げた末に服従し、お抱え娼婦たちのリーダーとなるフィリス。計略で殺人を犯したと思い込まされ、離れられなくなるレイチェル。登場する娼婦たちの中で唯一マシな未来を手にしたクリス。そしてもちろん、メロディやスカー・フェイスなどの怪人たちも脇役ながらダークな味をそえている。

彼の描くストリートでは、冷酷で汚い世界と、生き生きした美しい人物たちが共存している(それにしてもこの人、審美眼が大雑把なのか、「ハリウッドじゃあるまいし、そんなに美人がうじゃうじゃいてたまるか」と思うくらい、やたらに美人、美人という)。危険と貧しさが、豪華で快適な生活と隣り合わせに存在する。この極端から極端へと駆け回るギャップのせいで、現実を舞台にしているにもかかわらず、まるで魔界の遊園地のような、過激耽美ファンタジーのような世界が目の前に広がる。

これは戦前から戦後にかけての話だが、解説によるとピンプ稼業は近年でもあるらしい。貧しい若者たちは、はっきりした職業意識と、覚悟を持ってピンプになる。先輩から後輩へと受け継がれ、長年の間に確立された、いわば伝統と技術があるようだ。

また、娼婦たちのグループとそれを仕切るピンプ……という構造、これは一種の会社である。スリムも先輩ピンプたちも「どうせ一ヶ月ももたない女が大半だから、厳しい掟を課して1日16時間働かせ、『逃げたら仕入れる』が鉄則」と言っている。建前はどうあれ、これと同じ使い捨て方針で経営されている組織は堅気の社会にも多々ある。ピンプたちの言葉には、悪辣な経営者やリーダーたちの本音が満載、ともいえる。

 ただ、これだけ様々の手管を知っても、やはり男に貢ぐ女の気持ちは、私にはわからない。これはと思う技がひとつだけあった。それは先輩ピンプによる教訓の一部、

「女の脳ミソの中をのぞかなきゃいけない。彼女が何に対してなぜ腹を立ててるのか見極めろ。女に身の上話を語らせ、細かく聞き出したすべての話をひとつに組み立てて自分の知識と照合しろ」

 私の知る限り、本当にこんなことができる男はいない。そこまで踏み込んで理解できる人があったらそりゃ惚れるかもなあ、と思うが、スリムいわく

「駆け出しのピンプにとって女は謎に満ちた存在……年長者にこびへつらって教えを請い、手痛い失敗を繰り返しながら徐々に謎を解く。……しかしその謎をすべて解決することは、どんなに頭のいいピンプが一千年の時を費やしても不可能」

 と、大物ならではの謙虚さというべきか。え……でもそうすると、たとえば「ピンプ」を「小説家」や「精神科医」に置き換えると……人間が一千年生きるようにならない限り、男の筆によるマトモな女主人公も、本当にすごい精神分析本も生まれない……?

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