« 予算内で地球人女性になる | トップページ | エイメ「サビーヌたち」 »

2009年11月23日 (月)

もう一人のシーリア

41mh1f2c64l_sl500_aa240_1  私はスタージョン自体はとくに好きではなくて、この人のほかの作品にもそれほど興味がわかなかったんだけれども、この短編だけはすごく好き。ただ、この物語の何がそんなに強い印象を残すのか、説明するのは難しい。

人間社会にまぎれた怪人物の哀愁漂う物語、「もうひとりのシーリア」シオドア・スタージョン(河出書房 大森望編「不思議のひと触れ」より)

ボロアパートの住人スリム・ウォルシュは、人の生活を盗み見るのが趣味。かといって話しかけて仲良くなる気もない。住人に気付かれずに鍵を開閉する方法を発見し、他人の部屋を覗き見してまわっているうち、ある一人暮らしの女の、異様な秘密を知ってしまう。

シーリアはディスカウントショップで働く、地味で目立たない女性。実は、人工皮膚みたいな人間の皮(?)を二枚持ち、その二枚を交互に使うことで人間になりすましている。

服は一揃いしか持っていないのに、皮は二枚持っているというところがなんだか笑える。毎晩仕事から帰ると、自分の中身を皮から皮へと移動させる。この場面はすごく不思議で、映画でも小説でも、他のSFやファンタジーでは見たことのない怪異だ。グロテスクというより、清らかで静謐な雰囲気もある。ミュータントか、異星人かはわからないが、何か企んでいるというのでもなく、ただやむにやまれぬ必要(生理的欲求?)にかられてそれをする。人類より優れているのか、劣るのかという問いも無意味で、ただひたすら「違っている」。

覗き男ウォルシュは好奇心にかられて、シーリアの皮のうち一枚を盗んで隠す。孤独な男が天女の羽衣を盗み、「返してほしければ嫁になれ」とせまる昔話にちょっと似てきたか……と思ったら、意外な悲劇であっさり幕切れ。シーリアは人間には想像もつかないほど複雑で脆く、スペアの「人間スーツ」を失って中身の入れ替え作業が遅れたことで致命的ダメージを負う。

彼女の「人間のフリ」はこんなにも命がけで、ちょっとした手違いで壊れてしまうギリギリのものだったのだ。ほとんど何も持たずに生活し、誰とも関わらず、都会の片隅でひっそりと低所得労働に甘んじていたシーリア。この、中身入れ替えというのか皮の交換というのか、これをすることによってかろうじて生命を保っていたらしい。

ちなみにこのスペアの皮、なぜかタイプ用紙を真ん中だけくり抜いたものの中に隠されている。他人にはどんなに奇怪に見えようと、この行為が彼女の存在の核であり、二枚目の皮なしには彼女の存在もありえない。すぐ近くで暮らす者さえ彼女の秘密を知らない。唯彼女に一関心を寄せた男は、ひたすら情報を集めるだけで交流も意志の疎通もまったくできない――

このシーリアを名乗る生き物が何なのか、何の目的で人間のフリをしていたのかは謎のままだ。危機に陥っても同胞に助けを求めるわけでもなく、あくまでも正体を隠すために自爆したようにも見える。人間の中でひとりぼっちであるだけでなく、謎の生命体としても天涯孤独のようだ。

ウォルシュの「傷つけたかったわけじゃないのに……」という言葉が、互いに決して理解できない者同士の断絶を表わすようで物悲しい。

シュールといえばシュールなのかもしれないが、私には「これは現実そのもの」と思えるほど本質的な何かを含んだ、暗喩のような都市伝説。シーリアは私にとって、身近で、どこか懐かしい存在。今もたくさんのシーリアたちが世界のどこかにいる、と感じる。

にほんブログ村 本ブログへ

|

« 予算内で地球人女性になる | トップページ | エイメ「サビーヌたち」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/28889/32329777

この記事へのトラックバック一覧です: もう一人のシーリア:

« 予算内で地球人女性になる | トップページ | エイメ「サビーヌたち」 »